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事業再構築補助金の申請をオススメしない6の理由
こんにちは、公認会計士・税理士の山口真導です。
「事業再構築補助金」の二次公募が始まりました。そんな時期にこんなタイトルの記事を公開するのは、少し気が引ける反面、大事なことなので、ちゃんとお伝えしておかなければならないという意思の表れでもあります。
補助金の獲得は事業の成功を保証するものではありません。
実は、うちの会社は2008年に補助金3,000万円(補助率100%)を受け取っておかしくなりました。補助金は受け取るにしても注意が必要なのです。
事業再構築補助金の獲得をめざす方々に向けて、1人の失敗者から忠告を送りたいと思います。
0.はじめに
この記事は、ちょっと強めの自己主張をしていきます。しかし、事業再構築補助金を受け取るために、一生懸命申請書を書いている社長や、それを支援する認定支援機関の皆様を批判したくて書いているわけではありません。わたし達が選挙で選んだ国会議員が国会で審議して決まったことですので、我々国民を大いに活用すれば良いと思います。
一方で、おカネが貰えると思って、安易に取り組んでいる社長もいるのではないか?と危惧します。かつての自分のように・・・・・。
それは本当に危険なことなので、ご注意頂きたいというのが本稿の趣旨です。ご理解のうえで、ご一読下さいますようお願いします。
事業再構築補助金の申請をオススメしない6の理由は以下のとおりです。それぞれ詳しく説明していきたいと思います。
- 新規事業は小さく早くはじめなければならない
- 自己負担分の3分の1は国に対する補助金
- 補助金には税金がかかり資金繰りを悪化させる
- 補助金で成功するのは「申請させる」人
- 認定支援機関の養分になる
- コロナ禍の努力は認められない
1.新規事業のセオリーは「小さく早く始めよ」
すいません「当たり前」のことを書きました。ところが、補助金が最大6,000万円も貰えるとなると、こうした常識を忘れてしまうのが人間の悲しい性です。
事業再構築補助金の最低金額は100万円です。3分の2補助なので、150万円の新規事業投資からが対象になります。ですから、事業再構築補助金で小さく始めることは可能です。そういう意味では事業再構築補助金は悪くありません。しかし、6,000万円の上限が人間の欲望を刺激します。新規事業を始めるときは、当然、成功すると思って始めるので、成功イメージを実現しようと思うと大きな投資が必要だと考えがちです。
それに、今回、1兆1,485億円という巨大な予算が割り当てられています。みんなが100万円の計画を提出すると採択件数が膨大になって事務局がパンクするおそれがあります。そうなると採択されるのは、そこそこボリュームのある計画になるということも想定されます。どうせ出すなら採択されたいので、大きい計画を出そうというインセンティブがこことでも働くことになります。
また、新規事業をセオリー通り、小さく早く始める場合には、大量の紙の計画書が必要ということはありません。しかし、事業再構築補助金を受け取るためには申請書を書くという手間がかかります。申請書を書いている間は、新規事業はストップします。
つまり、事業再構築補助金の補助対象となる「新規事業」と「補助金」とは、そもそも相性がもの凄く悪いということを知って下さい。
2.コロナ対策の予算の3分の1を負担させられる?という発想
事業再構築補助金の補助率は3分の2です。残りの3分の1は自己負担です。そして、事業再構築補助金の趣旨はコロナ対策です。つまり、事業再構築補助金を受け取るということは、コロナ対策の予算の3分の1を負担させられるということを意味します。
この三段論法は、わたしの性格の悪さが出てしまっただけかもしれません。しかし、冷静に政府の立場に立って考えると、あながち間違っていない気もしてくるのです。
補助金欲しさに、突貫工事で考えた事業計画を遂行して、失敗したとしても、政府は痛くも痒くもありません。補助金と自己資金を合わせて、市中にその資金がバラまかれれば景気対策としては成功です。つまり、事業再構築補助金の採択対象になった新規事業が成功すれば税収にも繋がるので万々歳ですが、一方で、失敗したとしても最低限、景気対策としての目的は達成される仕組みなのです。しかも、3分の1は政府のおカネではありませんので、普段の景気対策より効率の良い対策になります。
政府は絶対に負けない仕組みになっているということです。
もし、本当に事業再構築補助金を通じて、新規事業の立ち上げを支援することが主たる目的であれば、のちほどご紹介する別の方法が道理にあっていると思いますが、そうしないのは、年度毎の予算主義という昔からの問題もありますが、そもそも新規事業の成否は主たる目的ではないことの証だと思います。
ましてや、事業再構築補助金に関しては、コロナ融資で資金供給がなされている状態なので3分の1を支払うのは難しくない事業者もある程度あります。コロナ融資で渡した資金を補助金で回収する巧妙なロジックを感じます。
しかし、コロナ融資は返済が必要な資金です。その資金を政府に対して「公共投資の補助金として」渡せる状況の会社がそれほど沢山あるようには思えません。
事業再構築補助金の申請は、この点を真剣に考えたうえで決めて頂きたいと思います。
3.補助金の資金繰り地獄
事業再構築補助金は固定資産の取得も範囲になっています。仮に900万円の建物を建てるとして、どのような資金繰りへの影響があるかをシミュレーションしてみましょう。
この建物の取得のために3分の2が補助金ですから600万円補助金が入ってきます。自己資金の負担は300万円です。建物なので、会計上は固定資産になり、減価償却を通じて費用化されます。建物の耐用年数は長く、初年度は月割になるはずですので、計算の簡略化のために償却費はゼロとして計算すると、補助金を貰う年度には次のような資金繰りへの影響があります。
補助金の入金600万円・・・①
建物の購入による出金900万円・・・②
補助金(雑収入)への課税180万円・・・③
資金繰りへの影響額△480万円(①ー②-③)
(圧縮記帳という方法で補助金への課税を繰り延べることは可能ですが、いずれ納税することにはなります)
ちなみに補助金の600万円が入ってくるのは、補助金の精算業務が終わった後ですので、この600万円も先に立替払いをする必要があります。3,000万円を超える補助金を受け取る場合には金融機関が認定支援機関として支援することが要件になっていますが、それ以下の補助金であったとしても、コロナ禍で資金繰りが苦しい会社が安易に取り組むものではないことは、上記の単純なシミュレーションでご理解頂けるかと思います。
4.補助金で成功する人は「申請させる」人
事業再構築補助金は申請する人は成功する人も出る一方で、一定数、失敗する人も出ると思います。もし、確実にこの補助金で利益を得たいのであれば、事業再構築助成金を申請するのではなく「申請させる」側に回って下さい。
事業再構築補助金を誰かに申請させて、そこから発注を受ければ、それは全額あなたの会社の売上になります。その際、自己資金の負担の必要はありません。
申請させるためには、あなた自身が、事業再構築補助金を申請する「つもり」で資料を読み込み、自社の商品・サービスのうち、補助金の対象になるものが、実質3分の1の値段で購入出来るとセールすれば良いのです。値引き販売なので普通に売るより簡単です。さらに補助金申請者は財布の紐が緩くなってますので、価格交渉も厳しくないケースが多いです。
この方法を既存の取引先に展開するのは気が引けるでしょうから、新規開拓でやるのが良いでしょう。通常、新規開拓の場合、取引条件は相手側が有利ですが、補助金を活用することで好条件の取引からスタート出来ます。これ以降の取引についても、この条件がスタートラインになるので、既存取引先よりも好条件の新規取引先開拓が出来ることでしょう。
この方法であれば、リスクの高い新規事業に進出することなく、補助金申請のための書類の作成も不要で、売上と利益を増やす事が出来ます。
申請する気が満々の方も、事業再構築補助金で成功する確率が高いのは、申請するあなたではなくコチラ側のヒトであることは忘れないようにしましょう。
5.認定支援機関の養分になる
もし、貴方にやりたい新規事業が昔からあって、そのチャンスが事業再構築補助金で巡ってきたとしたら、飛びついても構わないと思います。千載一遇のチャンスだと思います。
しかし、温めてきた新規事業もないのに、補助金の話とセットで営業がきたら気を付けましょう。あなたをテコにして、利益を上げようという輩かもしれません。
特に、補助金申請の支援をしている「わたしのような立場の人間」には要注意です。上手に補助金の申請書類を作って、あなたに補助金をもたらすかもしれませんが、あなたの新規事業に関して、なんの責任も負っていません。
補助金さえ貰えれば良いという気持ちでコンサルタントが書いた新規事業で、あなたが苦しむ必要は全くないと思います。
事業再構築補助金に限っていえば、リスクもかなりあるので、あなた自身がしっかりと新規事業の計画を立てなければなりません。そして、少しでも難しいと思ったら、勇気をもって撤退して下さい。
補助金を貰わなくても新規事業は出来ます。小さくやる分には、あなたの会社を資金繰り地獄に落とすこともありません。冷静に取り組んでいきましょう。
6.コロナ禍の努力が認められない
事業再構築補助金の対象になるのは、これからあらたに始める新規事業です。そして、原則として採択前の支出は補助対象として認められません。
問題はコロナ禍の中で生き残りをかけて昨年のうちから新規事業に乗り出している会社が、この補助金の対象にならず、何もしてこなかった「補助金が貰えるなら新規事業をやろうかな?」という会社が補助金を受け取れるという理不尽さです。
確かに、その事業をいつから始めたのか?は曖昧な概念なので、これからやることに限定せざるを得ないという事情も解ります。しかし、これからやることに限定したとして、それをどう厳密に判定するのか?という問題も残ります。コロナ対策というなら、新規事業に限定する必要あるのかな?と思わずにいられません。
わたしは、昨年から政府に頼らずに真面目に努力してきた社長に、これから始めるとウソの申請をするようにアドバイスをすることも出来ず、二人で悶々とした打合せの時間を過ごしています。
申請書を提出しなければ補助金を貰える可能性はゼロですが、とりあえず正直に申請書を出すだけ出したら採択される可能性もあるかもしれないと、一縷の望みを持って申請した申請書は、果たしてどのように取り扱われるのでしょうか?適当にウソを書いて出した会社が採択されて、真面目な会社が採択されないとしたら、悲しいし、逆に、表向き要件を満たしていなくても申請すれば採択されるなら、それこそ申請要件をみて諦めた人もいるわけで、なんともやるせない気持ちになります。
以上、6点が事業再構築補助金をオススメしない理由です。
オススメしない理由を書き連ねましたが、事業再構築補助金を申請する皆さんを応援する気持ちは勿論あります。この記事を読んでも申請すると決めた皆さん、絶対成幸するように頑張って下さい。
7.いま必要な補助金制度はこんな制度では?
文句ばっかり書いて終わるのも良くないので、対案も書いておこうと思います。
まず業態転換を促進させたいなら、いつからその事業を始めたかは度外視して、本業以外であれば良しとして、最初は100万円から300万円くらいの補助金として始めてみてはどうか?と思います。半年くらい新規事業を走らせた結果を評価して、支援先の中でも成果の高いところが次の補助金を得られるような方式で、次の資金が供給したら良いと思います。
だんだん企業数が絞られてきたら、本格的にデューデリをして、その会社が最終的に多額の補助金をもらうのに相応しいか、書類審査だけでなく面接や会社に実際に出向いて第三者機関が審査して、最後には1億円をドカンと渡すような仕組みを作ったら、成功する事業に資金を振り向けられますし、でっかい損失を出して資金繰り難に陥る会社も減ると思います。
一方で、そもそもコロナ禍もいずれは終了するでしょうから、そもそも業態転換に拘る理由なんてないとも思います。持続化給付金みたいに要件を満たした先に配ったうえで、その使い方を報告させて、その報告内容が優れている先には、さらに資金供給して支援していく簡単なカタチも良いと思います。
単年度の予算でやっているので、こうした継続支援は難しいのかもしれませんが、2年から3年くらいのタームで区切って予算取りしたら出来ないことないのではないか?と思います。
8.まとめ
わたし自身も事業再構築補助金の申請を検討していましたが、結局は見送りました。また、認定支援機関として申請をサポートするのもやらないことに決めました。
しかし、実は、既に新規事業は小さく、しかし、素早く開始しています。来月早々に、その第一段を皆さんにお見せできそうです。このワクワクは補助金の有無に関係ありません。失敗してもキズは浅いので思い切ってやっていこうと思います。
そんなことに取り組めるのも、本業の節税セミナーが好評を続けているからです。5月時点で去年1年分のセミナー参加者にほぼ並びました。コロナ禍の真っ只中であっても何人もの社長が手取りを増やす行動をはじめています。
補助金を受け取るのも良いですが、税金を「今は」払わずに自分の管理下に置いておくのも、ある種の資金調達のようなものです。是非、日程を合わせて参加してください。
次回は6月8日(火)開催です。
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